近年、遺品のなかでもトラブルに発展しやすいのが「デジタル遺品」と呼ばれる遺品です。
デジタルの発展とともに誕生したばかりの概念のため、まだ認知度が低く、生前整理や遺品整理の際に見落とすケースがあります。
しかし、見落とすと相続に関係するデジタル資産に気付かなかったり、知らないうちに故人が利用していた有料サービスの料金が引き落とされたりすることも。
本記事ではデジタル遺品とは何か解説したうえで、トラブルの事例や遺品整理の方法などを解説していきます。
記事監修者プロフィール
遺品整理士歴10年、これまでに5,000件以上の遺品整理や特殊清掃に携わる。手がけた遺品整理で発見された貴重品のうち、お返ししたタンス預金の合計だけでも3億3千万円にも上り、貴金属などの有価物を含むと5億円近くの金品を依頼者の手元に返して来た。
遺品を無駄にしないリユースにも特化。東南アジアへの貿易を自社にて行なっており、それに共感を覚える遺族も非常に多い。また不動産の処分も一括で請け負い、いわるゆ「負動産」を甦らせる取り組みにも尽力して来た。
一般社団法人ALL JAPANTRADING 理事
一般社団法人家財整理相談窓口会員
一般社団法人除染作業管理協会理事
宅地建物取引士(日本都市住宅販売株式会社代表取締役)
株式会社RISE プロアシスト東日本
代表 仲井
デジタル遺品とは?
デジタル遺品は一般的に故人が所有していたデジタル機器に保有されていたデータや、インターネットサービスのアカウントなどを指します。
ただし、近年に注目されはじめた言葉なので、まだ明確な定義はありません。
また、似た意味合いの言葉で「デジタル資産」や「デジタル遺産」などがあります。
しかし、こちらはネットバンキングや仮想通貨など、デジタル遺品のなかでも資産価値が高いものを指すことが多いです。
デジタル遺品はテクノロジーが発展したことで、デジタル形式の遺品が増えて問題視されるようになりました。
今後もデジタル機器やインターネットサービスの登場に合わせて、さまざまなデジタル遺品が出てくるでしょう。
デジタル遺品の種類
デジタル遺品はさまざまな種類がありますが、大きく分けるとデジタル機器に保存されるオフラインのものと、インターネット上に保存されるオンラインのものに分けられます。
具体的には、スマートフォンやパソコンに保存されているデータがオフラインのデジタル遺品、X(旧Twitter)やネット銀行などのアカウントがオンラインのデジタル遺品です。
具体的な種類については、下記の表を参考にしてください。
オフラインのもの | オンラインのもの | |
内容 | デジタル機器に保存されているデータ | インターネット上に保存されているデータ |
種類 | ・スマートフォン内のデータ・パソコン内のデータ・外付けHDDに保存されているデータ・デジタルカメラ内の写真データなど | ・SNSアカウント・インターネットバンキング・仮想通貨・ブログアカウント・サブスクなどの有料サービスなど |
デジタル遺品のトラブル事例
デジタル遺品はテクノロジーの発展とともに近年に登場したこともあり、さまざまなトラブルが発生しています。
ここでは、具体的にどのようなトラブルが発生しているのか、下記の3つの事例を紹介します。
- パスワードが分からなくて中身を確認できない
- 知らないうちにサブスクリプションの料金を払い続けていた
- 故人の誰にも知られたくなかったことを遺族が知ってしまう
あわせて対策方法も紹介するので、デジタル遺品でお困りの人は参考にしてください。
トラブル事例①パスワードが分からなくて中身を確認できない
1つ目の事例が、スマートフォンのパスワードが分からず中身を確認できないトラブルです。
スマートフォンのなかには個人情報が詰まっているため、人によってはスマートフォンを使用する前にパスワードを入力する「画面ロック機能」を設定しているでしょう。
便利な機能ではありますが、遺族にパスワードを伝えておかないと、スマートフォン内のデータを確認できません。
最悪の場合、ロックを解除できず、初期化してすべてのデータを消すことになるでしょう。
対策としては、事前にパスワードを伝えておくしかありません。
各携帯会社は遺族からの要望でもパスワードの解除は行っていませんし、画面ロックを解除する専門業者は信ぴょう性が低いです。
遺族が画面ロックを解除できるように、パスワードは伝えておきましょう。
トラブル事例②サブスクリプションの料金が引き落とされていた
2つ目の事例が、知らないうちにサブスクリプション(通称:サブスク)の料金が引き落とされていたというトラブルです。
サブスクとは、顧客が定期的に料金を支払うことでサービスや製品を利用できるビジネスモデルです。
映画やアニメなどの動画配信から、自宅まで食材を届けてくれる食材宅配など、さまざまなサブスクリプションサービスがあります。
サブスクは解約手続きをしない限り、自動更新されて料金が引き落とされる仕組みです。
故人が加入しているサブスクを知らないと、解約手続きができないことで知らないうちに料金が引き落とされるケースがあります。
対策としては、故人がどのようなサブスクに加入しているのか、把握しておくのがおすすめです。
故人が加入しているサブスクを一覧にしたうえでアカウント名やパスワードを聞いておき、亡くなったあとに速やかに解約手続きをできるようにしましょう。
トラブル事例③故人の誰にも知られたくなかったことを遺族が知ってしまう
3つ目が、故人の誰にも知られたくなかったことを遺族が知ってしまうトラブルです。
携帯電話やスマートフォンには個人情報が詰まっています。なかには、誰にも知られたくないような情報があるでしょう。
そのような情報を残したままにしてしまうと、亡くなったあとに遺族がスマートフォンのロックを解除して中身のデータを見てしまうことがあります。
なかには、思いがけない情報が入っていて遺族を傷つけてしまうことがあるでしょう。
遺族にショックを与えないためにも、誰にも知られたくない情報は事前に消しておくことが大切です。
普段から消すように心がけたり、生前相談のときにまとめて消したりしておきましょう。
デジタル遺品は生前整理がおすすめ
デジタル遺品はまだ一般的に浸透していないこともあり、遺品整理のときに見落とされてトラブルに発展することがあります。
上記で紹介したトラブルを避けるためには、生前整理を行うことが大切です。
デジタル遺品でトラブルが発生する原因は、遺族に情報を共有していなかったり、不要なデータを残したりすることがあげられます。
そのため、事前に生前整理をして不要なデータを消去し、遺族と情報を共有しておきましょう。
具体的なデジタル遺品の生前整理の方法は、下記で紹介します。
デジタル遺品の生前整理の方法
デジタル遺品の生前整理では、下記の3つを行うことが大切です。
- パスワードやアカウントなどの情報を共有する
- データに関する意向を残しておく
- 見られたくないデータを整理する
それぞれの具体的な内容について解説していきましょう。
パスワードやアカウントなどの情報を共有する
デジタル遺品の生前整理では、家族とパスワードやアカウントなどの情報を共有しておきましょう。
先述した通り、デジタル遺品でのトラブルは遺族に情報を共有していなかったことで発生します。
トラブルを避けるためにも、生前整理で情報をわかりやすくまとめ、遺族と情報を共有できるようにしましょう。
具体的な方法としては、下記の方法がおすすめです。
- アカウントやパスワードをリスト化しておく
- FXや仮想通貨などの資産の情報をまとめておく
- スマートフォンのパスワードをわかるようにしておく
デジタル遺品の資料を作成したら、年金手帳などと一緒に保存して、有事の際に遺族が確認できるようにしておきましょう。
データに関する意向を残しておく
データの情報だけでなく、亡くなった後にデータをどのようにするか意向を残しておくことも大切です。
SNSが一般的になった現代では、SNSを通じてコミュニケーションをとっている人が多くいます。
なかには、SNSで交流している人たちへ自分の死を伝えてほしいと考えている人もいるでしょう。
そのような意向が遺族にわかるように、生前整理で記しておくことが大切です。
自分の死後、SNSのアカウントを残すのか消すのか、残すとしたらSNSで死亡告知をするのかなど、エンディングノートなどに意向を記しておきましょう。
見られたくないデータを整理する
スマートフォンやパソコンに見られたくないデータがある場合、生前整理のときにデータを整理しましょう。
先述した通り、誰にも見られたくないデータが遺族の目に触れた場合、傷つけてしまうおそれがあります。おたがいのためにも見られたくないデータは必ず整理しましょう。
おすすめの整理方法は見られたくないデータを残さずに消すことです。しかし、なかには事情があって生前にデータを消せない場合があるでしょう。
そのようなときは、見られたくないデータを開かずに消去してほしいと意向を残したうえで、開けられないようにロックをかけておくことがおすすめです。
見られたくないデータが遺族の目に触れないよう、細心の注意を払って生前のうちにデータを整理しましょう。
デジタル遺品の整理方法
もし、自分がデジタル遺品を整理する場合、どのような手順で進めていけばいいのでしょうか。デジタル遺品の整理方法は、下記の手順で進めていくといいでしょう。
- デジタル遺品に関する情報や意向が残っていないかエンディングノートなどを確認する
- パスワードがわかる場合、ロックを解除してデータの中身を確認する
- 相続に関係するデータとそれ以外のデータに分別する
- どのようにデジタル遺品を整理するのか遺族で話し合う
- 必要に応じてデジタル遺品を処分したり売却したりする
このなかでも特に大切なのが、デジタル遺品の情報や意向の確認です。確認せずに行うと、見たくないデータを見てしまったり、故人が所有していたアカウントなどを見逃したりするおそれがあります。
デジタル遺品を整理する前に何か残されていないか、必ず確認しましょう。
処分するときの注意点
もし、デジタル遺品の確認を終えてデジタル機器やデータを処分する場合、注意点があります。以下のことに注意して、機器やデータを処分しましょう。
- デジタル機器を処分・売却する場合は必ず中身のデータを消去する
- デジタル機器を処分する場合は定められたルールを守る
- データを消去する場合は中身に見落としがないか確認する
- 不正アクセス禁止法に抵触しないよう不用意にアカウントへログインしない
- デジタル遺品を処分・売却する場合は必ず相続人の同意を得る
上記のようにさまざまな注意点がありますが、デジタル遺品は近年に登場した概念なので、まだ法整備が整っていません。今後、関連する法律が変わるおそれがあるため、日頃からよく情報をチェックしましょう。
まとめ
デジタル遺品はまだ登場したばかりの概念のため、生前整理や遺品整理のときに見落とされがちです。
しかし、デジタルが欠かせなくなった現代だからこそ、見落とすとトラブルに発展するおそれがあります。
デジタル遺品は必ず生前整理をしておき、遺族と情報や意向を共有しておきましょう。
また、今後はデジタル遺品に関連する法律が変わるおそれがあるため、日頃から情報収集しておくことも大切です。