生前整理

終活におけるお金の重要性|財産管理と相続準備について解説

人生100年時代といわれる現代において、「終活」は多くの方にとって重要なテーマとなっています。特に**「お金の終活」**は、ご自身の老後の安心と、万が一の際に残された家族の負担を軽減するために不可欠な準備です。

この記事では、終活におけるお金の管理・準備の具体的なステップ、かかる費用の目安、そして将来起こりうるトラブルを回避するための対策まで、総合的にに解説します。

ご自身の未来と大切なご家族のために、今日からできることを一緒に考えていきましょう。

記事監修者プロフィール

遺品整理士歴10年、これまでに5,000件以上の遺品整理や特殊清掃に携わる。手がけた遺品整理で発見された貴重品のうち、お返ししたタンス預金の合計だけでも3億3千万円にも上り、貴金属などの有価物を含むと5億円近くの金品を依頼者の手元に返して来た。

遺品を無駄にしないリユースにも特化。東南アジアへの貿易を自社にて行なっており、それに共感を覚える遺族も非常に多い。また不動産の処分も一括で請け負い、いわるゆ「負動産」を甦らせる取り組みにも尽力して来た。
一般社団法人ALL JAPANTRADING 理事
一般社団法人家財整理相談窓口会員
一般社団法人除染作業管理協会理事
宅地建物取引士(日本都市住宅販売株式会社代表取締役)


株式会社RISE プロアシスト東日本
代表 仲井

目次

終活でお金について考える「お金の終活」とは?

まず、「お金の終活」がどのようなもので、なぜ今その必要性が高まっているのかを理解することから始めましょう。

「お金の終活」の定義と目的

「終活」とは、ご自身の意思に基づいて人生の終盤に備えるための準備を指します。これは単に死後の準備にとどまらず、残りの人生をより良く、充実させるための前向きな活動です。「お金の終活」は、その中でも特に金銭面に焦点を当てたもの。老後の安心と家族の幸せのために、ご自身の財産を整理し、将来の計画を立てることを目的としています。

なぜ「お金の終活」の必要性が高まっているのか

近年、「終活」の必要性が高まっている背景には、大きな社会の変化があります。1960年と2020年を比べると、世帯数は2倍以上に増えた一方、1世帯あたりの人数は半分近くにまで減少しました。特に、65歳以上の世帯では約3人に1人が一人暮らしという状況です。

このような核家族化や高齢者人口の増加により、将来のことを自分自身で考え、備える必要性が高まっています。また、身近な方の死や病気を経験し、残された家族の負担を減らしたい、相続トラブルを防ぎたいという思いから終活を始める方も少なくありません。特に、認知症などで判断能力が衰えると、お金に関するトラブルに巻き込まれやすくなるため、心身ともに元気なうちに管理体制を整えておくことが非常に重要です。

終活はいつから始めるべき?

「終活」と聞くと、まだ早いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、始めるタイミングに「早すぎる」ということはありません。

健康寿命と平均寿命のギャップ

終活を始める時期に決まりはありませんが、多くの方が60代や70代を意識されるようです。しかし、忘れてはならないのが「健康寿命」の存在です。健康寿命とは、日常生活を不自由なく過ごせる期間を指し、男性で約73歳、女性で約75歳といわれています。

平均寿命との間には、男性で約8年、女性で約12年もの差があり、この期間は療養や介護が必要になる可能性が高いことを示しています。判断能力がしっかりしている元気なうちに準備を始めることが、後悔しない終活の鍵となります。

「思い立った時が始め時」の理由

終活は、まさに**「思い立った時が始め時」**です。50代など早い段階から準備を始めることで、時間をかけてじっくりと計画を立てることができます。また、ご自身で整理や手続きを進められる範囲が広がるため、将来的に専門業者へ依頼する費用を抑えることにも繋がります。何より、気力・体力が充実しているうちに取り組むことで、心身への負担を大きく減らすことができるのです。

「お金の終活」の具体的なステップと準備

では、具体的にお金の終活をどのように進めていけば良いのでしょうか。以下の4つのステップに沿って、一つずつ準備を進めていきましょう。

STEP1: 資産の洗い出しとリスト化

最初に行うべきは、ご自身が持つすべての資産を正確に把握し、一覧にすることです。これは「お金の終活」の土台となる最も重要な作業です。

  • プラスの資産: 預貯金(普通・定期)、有価証券(株式・投資信託など)、不動産、現金はもちろん、通帳が発行されないネット銀行の口座や、意外と忘れがちなマイル、ポイントなどもリストアップしましょう。貸金庫があれば、その中身も忘れずに記載します。
  • マイナスの資産: 住宅ローンやカードローンといった借入金も、必ずリストに含める必要があります。
  • 契約情報: 生命保険、クレジットカード、携帯電話の契約、そして動画配信やスポーツクラブといったサブスクリプションサービスなど、毎月支払いが発生しているものも書き出します。これにより、万が一の際に家族が解約手続きをスムーズに進められます。

このリストは、エンディングノートやパソコンのファイルなど、ご自身が管理しやすい形式で構いません。大切なのは、「何が」「どこにあるか」をご家族がわかるようにしておくことです。

STEP2: 不要な資産・サービスの整理・解約

資産の洗い出しを進めると、長年使っていない銀行口座や証券口座が見つかることがあります。複数の口座は管理が煩雑になるだけでなく、不正利用のリスクも伴います。これを機に、使っていない口座は解約することをおすすめします。口座の解約はご本人が行うのが最もスムーズですので、早めに行動しましょう。

同様に、利用頻度の低いサービスやサブスクリプションも見直し、不要なものは解約して無駄な支出を減らしましょう。また、将来管理が難しくなりそうな空き家や土地などの不動産は、元気なうちに売却を検討するのも有効な選択肢です。

STEP3: 金融資産の目的別分類

資産の全体像が見えたら、次はその使い道を考えます。資産を目的別に分類することで、漠然としたお金の不安が解消され、計画的な利用が可能になります。

  1. 生活費の補填に使うお金: 年金収入だけでは毎月の生活費が不足する場合に備える資金です。
  2. 生活費以外に使うお金: 趣味や旅行、住まいのリフォーム、車の買い替え、お墓の購入など、将来予想されるまとまった支出のための資金です。
  3. 医療や介護に備えるお金: 病気や介護が必要になった時のための資金です。一般的に1人あたり200~300万円程度が目安とされますが、将来的に施設への入居を考えている場合は、その費用も考慮する必要があります。

STEP4: 記録と共有

どんなに綿密な計画を立てても、その情報がご家族に伝わらなければ意味がありません。情報を確実に引き継ぐための準備をしましょう。

  • エンディングノートの活用: エンディングノートは、ご自身の情報をまとめて家族に伝えるための便利なツールです。法的効力はありませんが、家族の負担を大きく減らすことができます。
  • 遺言書の検討: 財産の分け方について法的な効力を持たせたい場合は、遺言書の作成を検討しましょう。
  • 家族との情報共有: 作成した資産リストは、信頼できるご家族と共有しておくことが重要です。ただし、安全のために口座の暗証番号やパスワードまで記載するのは避け、リストとは別に厳重に保管しましょう。「どの銀行に口座があるか」という情報だけでも、残された家族にとっては大きな助けとなります。
  • 定期的な見直し: 資産状況は常に変動します。年に一度など、定期的にリストの内容を見直し、最新の状態に更新することを心がけましょう。

「お金の終活」にかかる費用と内訳

終活には、どのような準備をするかによって様々な費用がかかります。事前に目安を知っておくことで、計画的に資金を準備できます。

全体的な費用相場

終活にかかる費用の一般的な相場は80万円~250万円程度とされています。ただし、お墓を新しく建てる、持ち家を処分するなど、状況によっては数百万円以上の費用がかかる場合もあります。

各費用の目安

主な終活関連費用の目安を以下の表にまとめました。ご自身の状況に合わせて、必要な費用を試算してみましょう。

費用項目目安金額備考
お墓約135万円樹木葬(約67万円)や納骨堂(約78万円)など形式により費用は変動。
葬儀費用約111万円葬儀の規模や形式で大きく変動。直葬なら10万~50万円程度も可能。
財産整理(専門家費用)50万~70万円依頼する専門家(弁護士、行政書士など)や内容による。
遺品整理約47万円専門業者に依頼した場合。自身で行う場合は数万円程度。
空き家処分約110万円家の解体や整理にかかる費用。
医療・介護費用100万円~要介護度や利用するサービスによって大きく異なるため、多めに準備。
エンディングノート0~数千円無料でダウンロードできるものから、市販品まで様々。
デジタル整理0~10万円自身で行えば無料。業者依頼の場合は内容による。

老後資金の準備と資産運用

終活費用の試算や将来の生活設計をする中で、資金が不足しそうだと感じた場合の対策について解説します。

足りない資金への対策

もし準備すべき資金が保有資産を上回る場合は、早めに対策を立てることが大切です。具体的には、家計を見直して支出を削減する、働き方を工夫して収入を増やすなどの方法が考えられます。また、今ある資産を有効活用して増やす「資産運用」も選択肢の一つです。

資産運用の考え方とリスク

将来のお金を育てる手段として、投資信託などを活用した資産運用は有効です。しかし、運用には元本が減ってしまうリスクも必ず伴います。投資は、あくまで生活に影響のない範囲の余裕資金で、リスクとリターンを十分に理解した上で行いましょう。

また、一般的に75歳を過ぎると、判断能力の低下や身体的な衰えを感じる方が増えるといわれます。そのため、80歳頃を目安に資産の管理をできるだけシンプルにしておくことが賢明です。取引する金融機関を絞り、運用している資産も現金化するなど、**「いつでも誰でも分かりやすく使える状態」**にしておくことを心がけましょう。

おひとりさまの「お金の終活」のポイント

身寄りのない方や、ご家族に頼れない事情がある方にとって、「お金の終活」は特に切実な問題です。ご自身の意思を確実に未来へつなぐための方法をご紹介します。

身寄りのない場合の特別な対策

相続人がいない場合、遺された財産は原則として国のものになります。しかし、ご自身の意思を反映させ、老後の生活や死後の手続きを信頼できる人に託すための法的な制度があります。以下の3つの契約は、公正証書として作成することで、その効力を確実なものにできます。

  1. 任意代理契約(委任契約): まだ元気なうちに、将来身体が不自由になった場合に備え、財産管理や各種契約手続きなどを信頼できる人に代行してもらうための契約です。
  2. 任意後見契約: 将来、認知症などで判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめご自身で選んだ後見人に財産管理などを任せる契約です。
  3. 死後事務委任契約: ご自身の死後に行われる葬儀や埋葬、関係各所への手続き、遺品整理などを信頼できる人に託すための契約です。

これらの制度を活用することで、おひとりさまでも安心して老後を迎え、最期まで自分らしい人生を送るための準備をすることができます。

終活トラブルを避けるための注意点

最後に、お金の終活を進める上で起こりがちなトラブルを避け、円満な準備をするための注意点を押さえておきましょう。

相続税対策と遺産分割への配慮

相続財産が一定額を超えると相続税がかかります。相続税対策は、生前贈与や生命保険の活用など、時間をかけて計画的に行うのが最も効果的です。高齢になってから慌てて不動産を購入するなどの方法は、かえってリスクを高めることもあるため注意が必要です。

また、財産の分け方で家族が争う**「争族」**を避ける配慮も欠かせません。特定の相続人に法律で最低限保障された相続分である「遺留分」を侵害しないような、公平な遺産分割を心がけることが大切です。

情報共有の範囲と厳重な管理

お金に関する大切な情報は、たとえ家族であっても共有する相手を慎重に選ぶ必要があります。財産のありかやID、パスワードを安易に共有すると、悪用されるリスクもゼロではありません。前述の通り、パスワードなどの重要な情報はエンディングノートに直接書かず、別途厳重に管理し、その保管場所だけを伝えておくのが安全です。

定期的な見直しと専門家への相談

一度作成した資産リストや計画も、状況の変化に合わせて定期的に見直すことが重要です。

また、終活には法律や税金など、専門的な知識が必要な場面が多くあります。少しでも分からないことや不安なことがあれば、ファイナンシャル・プランナー(FP)、弁護士、税理士といった専門家に相談することをためらわないでください。専門家の力を借りることで、よりスムーズで安心な終活を進めることができます。

まとめ

「お金の終活」は、ご自身の老後生活の質を高め、残されたご家族の心身の負担を軽くするために、とても大切な準備です。まずはご自身の資産を正確に把握し、将来を見据えて計画を立てることが、漠然とした不安を解消する第一歩となります。

年齢は関係ありません。この記事を読んだ「今」が、あなたの終活の始め時です。早めに着手し、必要に応じて専門家のサポートも活用しながら、後悔のない「お金の終活」を実現し、これからの人生をより豊かに過ごしていきましょう。