近年、孤独死が増加していることで問題になっているのが遺体の引き取り先です。
親族が孤独死をすると警察から「遺体を引き取ってほしい」と連絡がくることがあります。
しかし、親族と疎遠だったり確執があったりすると、引き取りを拒否したいと考える人がいるでしょう。
警察から遺体の引き取りの要請があった場合は、拒否できるのでしょうか。
本記事では、警察から遺体の引き取りの要請があった場合拒否はできるのか、また拒否した場合に何かしらの費用の請求があるのかについて解説していきます。
記事監修者プロフィール
遺品整理士歴10年、これまでに5,000件以上の遺品整理や特殊清掃に携わる。手がけた遺品整理で発見された貴重品のうち、お返ししたタンス預金の合計だけでも3億3千万円にも上り、貴金属などの有価物を含むと5億円近くの金品を依頼者の手元に返して来た。
遺品を無駄にしないリユースにも特化。東南アジアへの貿易を自社にて行なっており、それに共感を覚える遺族も非常に多い。また不動産の処分も一括で請け負い、いわるゆ「負動産」を甦らせる取り組みにも尽力して来た。
一般社団法人ALL JAPANTRADING 理事
一般社団法人家財整理相談窓口会員
一般社団法人除染作業管理協会理事
宅地建物取引士(日本都市住宅販売株式会社代表取締役)
株式会社RISE プロアシスト東日本
代表 仲井
警察から遺体の引き取り依頼がきても拒否できる
警察から遺体を引き取ってほしいと連絡があった場合、引き取りを拒否できます。
遺体の引き取りは強制ではないため、遺族の意向が尊重されます。
「長らく故人と連絡をとっていなかった」「故人と確執があった」という理由でも、引き取りの拒否が可能です。
ただし、少しでも思うところがあれば、一度考え直したほうがいいでしょう。「あのとき引き取ればよかった」と後悔すると、その思いはなかなかぬぐえません。
もし、悩むのであれば、周りと相談をしたり考え直したりして、後悔がないようにしましょう。
遺体の引き取り拒否と費用の請求は別問題
遺体の引き取りは拒否できますが、遺体を弔うのにかかった費用は請求される場合があります。
遺体の引取り人がいなかった場合、自治体によって火葬された後、一般的には無縁仏に埋葬されます。
これらの手配には費用がかかるため、下記の順番で費用を請求されることがあるでしょう。
- 故人の財産から充当する
- 相続人へ費用を請求する
- 扶養義務者へ費用を請求する
- 自治体が費用を払う
このなかでも注意しなければならないのが、相続人と扶養義務者への請求です。相続放棄をすれば相続人の扱いでなくなるため、費用を請求されません。
しかし、相続放棄をしても扶養義務者である場合は、費用を請求されるおそれがあります。
もし、自身が費用を請求される立場なのか分からなければ、弁護士などに相談してみるといいでしょう。
関連記事:遺品整理を行うと相続放棄ができない?理由や例外のケースを解説
遺体の引き取りを拒否したときの流れ
警察から連絡を受けて遺体の引き取りを拒否した場合、その後はどのような流れで進んでいくのでしょうか。
引き取りの拒否からその後の流れは、警察や自治体が下記のように進めていきます。
- 警察から遺体の引き取り依頼がくる
- 自治体が火葬の手配を行う
- 自治体から費用の請求がくる
それぞれの具体的な内容を見ていきましょう。
①警察から遺体の引き取り依頼がくる
孤独死や事故死など故人の死に少しでも事件性がある場合は、警察が遺体の身元や不審な点を調べます。
その後、事件性の有無や身元が判明すれば、遺体を引き取りできないか、警察から遺族へ連絡がいくので、引き取るつもりがなければ拒否しましょう。
また、遺体の引き取りの連絡は必ず警察から連絡が入るわけではありません。
場合によっては、自治体や火葬場から連絡が入ります。自治体や火葬場から連絡がきても引き取りを拒否したければ、しっかり意向を伝えましょう。
②自治体が火葬の手配を行う
遺体の引き取り先がなければ、警察から自治体へと遺体が引き渡され、自治体の手配で火葬を終えます。
その後、自治体から遺骨の引き渡しの連絡がきますが、こちらも義務ではないので拒否が可能です。
しかし、地域によっては遺骨の引き取りを拒否しにくい場合があります。
特に関東圏は民間の火葬場が多く拒否をしにくいようで、遺骨を引き取らなければならないことがあるでしょう。
③自治体から費用の請求がくる
また、自治体から火葬などにかかった費用の請求がきます。先述したとおり、遺体や遺骨の引き取り拒否と費用の支払いは別です。
自身が相続人や扶養義務者であれば、費用を請求されるおそれがあるでしょう。
なお、相続人は故人の遺産を相続した人を指し、扶養義務者は故人の配偶者や子ども、兄弟姉妹を指します。
自身がどの立場にあたるかわからなければ、弁護士などの専門家に相談しましょう。
遺体の引き取りの拒否しても相続の手続きは必要
遺体の引き取りを拒否した人のなかには、引き取りを拒否したから相続も放棄したと考える人がいるかもしれません。
しかし、遺体の引き取りを拒否しても相続を放棄したことにはならないため、拒否とは別に相続の手続きをする必要があります。相続の手続きは期限があるため、早めに進めましょう。
なお、先述した通り、相続人になった場合、自治体から火葬にかかった費用を請求されることがあります。
また、負債も相続することになるので、相続するかは慎重な判断が必要です。
遺産を相続するか自身で判断がつかなければ、弁護士などの専門家に相談するといいでしょう。
相続放棄をする場合は3ヶ月以内に手続きをする
もし、相続放棄をする場合は、故人の死を知った日から3ヵ月以内に手続きを済ませなければなりません。なお、遺産放棄は下記の流れで進めていきます。
- 必要書類の準備
- 故人の財産の調査
- 家庭裁判所への申請
もし、個人で相続放棄の手続きをする場合、費用は書類の発行にかかる数千円で済むでしょう。
一方、弁護士や税理士などのプロに依頼をすると数万円かかります。
しかし、故人の財産の調査を個人で行うと、見落として思いがけない負債を背負うことになるかもしれません。
費用はかかりますが余計な負債を抱えないためにも、相続放棄の手続きはプロに任せたほうがいいでしょう。
遺体の引き取りを拒否する時の注意点
もし、遺体の引き取りを拒否する場合、いくつかの注意点があります。見落とすと後悔したりトラブルに発展したりすることがあるので、下記の4つの注意点に気をつけましょう。
- 周囲の人と相談をする
- 火葬の費用を請求されるおそれがある
- 相続の手続きを行う必要がある
- 相続放棄をする場合は遺品整理を行わない
それぞれの詳しい内容を見ていきましょう。
注意点①周囲の人と相談をする
警察から遺体の引き取りの依頼があった場合、自己の判断だけでなく、周囲の人へ相談するのをおすすめします。
もし、故人と確執があった場合、警察から遺体の引き取りの連絡がきたら、その場で拒否をしてしまうかもしれません。
しかし、一時の感情に身を任せると、後悔してしまうことがあります。冷静になるためにも、ほかの遺族や親族と相談するといいでしょう。
また、遺体の引き取りはほかの遺族や親族にとってもデリケートな問題です。
引き取りを拒否してもいいか確認を取らないと、あとからトラブルになる可能性があります。
余計なトラブルを避けるためにも、やはり一度相談をしたほうがいいでしょう。
注意点②火葬の費用を請求されるおそれがある
先述した通り、遺体の引き取りを断っても、火葬などにかかった費用を請求されるおそれがあります。
遺体の引き取りの拒否と故人を弔うためにかかった費用は別の問題です。引き取りを拒んだからといって、費用の請求は避けられません。
火葬にかかった費用は故人の遺産から充当されますが、不足していた場合は相続人、扶養義務者の順番で請求されます。
相続放棄をすれば相続人ではなくなりますが、扶養義務者の場合は請求を避けることは難しいでしょう。
相続放棄をしても扶養義務者として請求がくるならば、相続放棄をするのは適切なのか見直す必要があるかもしれません。
注意点③相続の手続きを行う必要がある
こちらも先述しましたが、遺体の引き取りを拒否しても相続の手続きを行わなければなりません。
引き取りを拒否する人のなかには、遺体の引き取りの拒否と相続放棄を同じものと考える人がいます。
しかし、火葬の費用と同様に、遺体の引き取りの拒否と相続放棄は別問題のため、相続の手続きを行わなければなりません。
もし、相続放棄をする場合は、故人の死を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。速やかに手続きを進めるようにしましょう。
注意点④相続放棄をする場合は遺品整理を行わない
もし、相続放棄をする場合、遺品整理は行わないほうがいいでしょう。
相続放棄をする人が遺品整理を行うと、単純承認とみなされて相続を認めたことになる場合があります。
すべての遺品整理の作業が単純承認にあたるわけではありませんが、判断が難しいので、できれば遺品整理を行わないほうがいいでしょう。
もし、何らかの理由により遺品整理を行う必要があれば、始めても問題ないか弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。
まとめ
警察から遺体の引き取りの依頼があった場合、引き取りは強制ではないので拒否できます。
しかし、自身が相続人や扶養義務者のときは、拒否しても故人を弔った際の費用を請求されるおそれがあるでしょう。
また、引き取りを拒否しても相続放棄をしたとはみなされません。
遺体の引き取りの拒否とは別に相続の手続きを進めなければならないので、忘れずに手続きを進めましょう。