形見分けは故人との思い出の品や愛用品を親族や故人と親しかった人と分ける日本の慣習です。
しかし、形見分けは勝手に品物を持っていかれたり、黙って勝手に行われたりなど、トラブルが尽きません。一度形見分けでトラブルになってしまうと根が深く、それ以降は疎遠になってしまうケースもあります。
そんな最悪な事態を避けるためにも、本記事では形見分けの意義をはじめ、形見分けの注意点、トラブルが発生したときの解決法などを紹介します。
記事監修者プロフィール
遺品整理士歴10年、これまでに5,000件以上の遺品整理や特殊清掃に携わる。手がけた遺品整理で発見された貴重品のうち、お返ししたタンス預金の合計だけでも3億3千万円にも上り、貴金属などの有価物を含むと5億円近くの金品を依頼者の手元に返して来た。
遺品を無駄にしないリユースにも特化。東南アジアへの貿易を自社にて行なっており、それに共感を覚える遺族も非常に多い。また不動産の処分も一括で請け負い、いわるゆ「負動産」を甦らせる取り組みにも尽力して来た。
一般社団法人ALL JAPANTRADING 理事
一般社団法人家財整理相談窓口会員
一般社団法人除染作業管理協会理事
宅地建物取引士(日本都市住宅販売株式会社代表取締役)
株式会社RISE プロアシスト東日本
代表 仲井
形見分けとは?
形見分けは、親族や故人と親交があった人で故人の愛用品を分ける慣習です。
昔は故人の愛用品を分け合うことで、魂を継承して供養すると考えられていました。
現在ではほかにも、形見分けで思い出を語らい故人を偲んだり、故人の思いを引き継いだりするという考えもあります。
形見分けの考えを知ると必ず行わなければならないと思ってしまいますが、行うかはそれぞれの考え次第です。形見分けをするかは、遺族や親族でよく話し合って決めましょう。
形見分の品は相続財産にあたる
形見分けの品は慣習ということで扱いがあいまいになりがちですが、法律の側面からみると相続財産にあたります。
相続財産とは、基本的に故人が所有していたすべてのもののことです。資産価値があるものだけが相続財産と思われがちですが、故人が愛用していた衣類や時計、アクセサリーなども相続財産に含まれます。
相続財産は遺産分割が終わるまですべての相続人が共有するものになるので、ほかの相続人の許可を得ずに勝手に形見分けをしないようにしましょう。
遺産相続と形見分けは違う
遺産相続と形見分けはどちらも遺産を分け合うので同じように捉えがちですが、分け合う品や対象者が異なります。
遺産相続は、資産価値がある品を法定相続人が相続する行為です。
目に見える遺品だけでなく、個人が所有していた権利や義務なども引き継ぎます。
一方、形見分けは基本的に資産価値がないものを遺族や親族、故人と親交があった人で分け合う行為です。
ただし、故人の意向によっては資産価値があるものを分け合うこともあります。しかし、相続税や贈与税が発生するおそれがあるので注意しましょう。
形見分けは勝手に行ってはいけない
形見分けは独断で行うとトラブルが発生することがあるため、勝手に行ってはいけません。
一般的に形見分けは資産価値がない品を分けあいますが、遺品に対する思い入れは遺族の間でも違います。
資産価値がないからといって勝手に分けてしまうと、「思い出の品だからもらおうと思っていた」と、トラブルへ発展する可能性があるでしょう。
親族や故人の友人から「譲ってくれ」と言われても一旦話を預かって、全ての相続人から了承を得たうえで譲ってください。
勝手に形見分けの品を持っていかれたら?
もし、勝手に形見の品を持って行かれた場合、自身が相続人なら返還を要求できます。
先述した通り、遺産分割を行う前の形見分けの品はすべての相続人が共有しているものです。そのため、形見分けをするときには、相続人全員から了承を得なければなりません。
もし、勝手に形見分けをされて納得がいかないときは、形見分けの無効を主張して返還を要求してもいいでしょう。
遺産分割協議の後に勝手に形見分けしたことが判明した場合、遺産分割協議自体がやり直しになるおそれがあります。
形見分けを行う時期
形見分けを行う時期は決まっていません。しかし、一般的には下記のタイミングで行うことが多いようです。
- 遺品整理を終えた時
- 忌明けの法要時
前提として、形見分けは遺品整理を終えて形見分けの品の選別ができていなければ始められません。
そのため、遺品整理を終えたタイミングで親族や故人の友人を集めて行うことが多いようです。
また、親族や故人の友人が集まりやすい忌明けの法要時に形見分けを行う人もいます。
その場合は、法要までに遺品整理を終えなければならないので、早いうちから計画的に進めましょう。
宗派によって法要を行うタイミングは異なるため、法要に合わせると形見分けのタイミングも変わります。
仏教は四十九日法要、神道は三十日祭もしくは五十日祭、キリスト教は逝去されてから1か月後の召天記念日に行うことが多いようです。
形見分けを行うときの注意点
形見分けは事前にいくつかの注意点を知らないと、後から取りかえしのつかない事態が発生するおそれがあります。トラブルを避けるためにも、形見分けを行うときには下記の4つの注意点に気を付けましょう。
- 遺言書やエンディングノートを確認する
- 全ての相続人を集めて行う
- 価値が高い品は税金が発生する可能性がある
- 相続放棄ができなくなる可能性がある
なぜ、これらの事柄に気を付けなければならないのか、詳しい内容を解説していきます。
遺言書やエンディングノートを確認する
形見分けを行うときは、まず遺言書やエンディングノートに故人の意向が残されていないか確認してください。
遺言書やエンディングノートには、故人が望む遺品の譲り先や寄付先が記されていることがあります。
遺言書やエンディングノートの内容は、故人の生前からの強い意向や遺品をめぐって争ってほしくないという気持ちの表れなので、尊重して形見分けを行いましょう。
遺言書は定められた形式で作成されていれば法的効力が生じます。一方、エンディングノートには法的効力はありません。
全ての相続人を集めて行う
形見分けは後からトラブルが起きないように、全ての相続人を集めてから行うようにしてください。
形見分けは事前に相続人全員へ許可を得ることが大切ですが、遺品の量が多いと実物を見ながらの確認が難しいでしょう。
実物を見ながら確認できないと、齟齬が生まれて許可を取ったか水掛け論になるおそれがあります。
実際に遺品を見ながら形見分けの品を確認することが大切なので、形見分けのときに相続人全員を集めて行うのがおすすめです。
価値が高い品は税金が発生する可能性がある
資産価値が高い品を形見分けすると、相続税や贈与税が発生する可能性があります。
形見分けは写真や衣類など資産価値が低いものを分け合うことが多いですが、なかには高価なアクセサリーや時計などを分け合うこともあるでしょう。
高価なものは資産価値が高く、相続税や贈与税が発生することがあります。
相続税が発生した場合は基礎控除範囲内であれば、贈与税の場合は贈与を受けた財産の価額の合計額が年間110万以下であれば申告する必要はありません。
相続放棄ができなくなる可能性がある
資産価値の高い遺品を形見分けすると、相続放棄ができなくなる可能性があるので注意してください。
故人に借金などがあった場合、負の遺産まで相続してしまうので相続放棄を検討することがあるでしょう。
そのようなときに形見分けを行って資産価値が高い遺品を誰かに送ると、相続財産の処分や隠匿と判断されて、相続放棄ができなくなることがあります。
相続放棄を考えている場合は、まずは弁護士などの専門家に相談しましょう。
資産価値がない遺品なら、慣習とみなされて相続財産の処分や隠匿にあたらないと判断される可能性が高いです。
形見分けのマナー
全ての相続人に相談をしたうえで形見分けを行う場合、事前にマナーを知らないと送る相手に不快な思いをさせてしまうかもしれません。
形見分けでは主に次の2つのマナーに気をつけましょう。
- 故人より目上の人と分けない
- 形見分けの品は包装しない
なぜこの2つのマナーを守らなければならないのか、詳しい内容を解説していきます。
故人より目上の人と分けない
故人より目上の人と形見分けをするのは失礼にあたるため、マナー違反とされています。
形見分けの品は基本的に経年劣化しており資産価値がないものばかりです。
目上の人から希望されたのならともかく、申し出もないのに古くなった品を渡すのは失礼にあたるでしょう。
なお、目上の人から希望があった場合には、形見分けをしても問題はありません。
しかし、経年劣化しているのでなるべくきれいな状態にしてから渡すようにしましょう。
形見分けの品は包装しない
形見分けの品を渡すときはプレゼントではないので包装する必要はありません。
あくまでも形見分けは遺品を分け合うことで魂を継承して供養したり、故人の想いを引き継いだりする慣習です。
遺品をプレゼントするわけではないので、包装せずにそのままの状態で渡しても失礼にはなりません。
なお、そのままの状態で渡すのが気が引けるという人は、白い紙に包んで、仏式なら「遺品」、神式なら「偲び草」と表書きをして渡してください。
形見分けで発生するトラブル
形見分けは勝手に行われたり勝手に遺品を持って行かれたりするだけでなく、ほかにもトラブルが尽きません。ここでは形見分けでよく見られる次の3つのトラブルを紹介します。
- 故人と口約束していた
- 第三者が登場する
- 形見分けの品を捨ててしまった
それぞれの詳しい内容を見ていきましょう。
故人と口約束していた
形見分けでよく見られるトラブルが、「遺品を譲る」と故人と口約束をしていたケースです。
口約束は証拠がないことが多いため、ほかの親族から疑念を抱かれてしまいます。
資産価値がない遺品ならともかく、資産価値が高い遺品だと「売ろうとしているのでは?」と、疑われてしまうでしょう。
もし、故人から遺品を譲るという話があれば、口約束ではなく遺言書やエンディングノートなどの書面に残してもらうことが大切です。約束していた証拠があれば、ほかの親族も納得してくれるでしょう。
第三者が登場する
故人が亡くなった後に、「形見分けをしてほしい遺品がある」と、面識のない第三者から連絡が入ることがあります。
面識がないとつい相手を疑って断りたくなりますが、家族が知らないだけで、実際に故人と親しい関係なのかもしれません。
安易に断ってしまっては故人の友人を傷つける可能性があるため、まずは相手の話を聞きましょう。
なお、第三者が故人の隠し子など深い関係を主張してきた場合は、相続にも大きく関わってきます。
戸籍を調べたり専門家に相談したりしながら、ほかの親族と相談をしましょう。
形見分けの品を捨ててしまった
ほかの親族との関係に大きく影響してしまうトラブルが、形見分けの品を捨ててしまうケースです。
自分にとって価値がない遺品でも、ほかの親族にとっては思い入れのある大切な遺品かもしれません。
そのような大切な遺品を勝手に捨ててしまうと、後から「もらおうと思っていたのに」と責められて、トラブルへ発展する可能性があるでしょう。
遺品は一度捨ててしまうと取り返しがつきません。必ず捨てる前にほかの親族に確認をとるようにして、トラブルを避けてください。
形見分けでトラブルが起きた場合の対処法
実際に形見分けでトラブルが起きてしまった場合には、どのように対処したらいいのでしょうか。主な対処法は次の3つが挙げられます。
- 話し合いをする
- 高価なものは遺産分割へ
- 専門家に相談する
実際にどのようなことをしたらいいのか、具体的な内容を解説していきます。
話し合いをする
形見分けでトラブルが起きた場合には、まずは話し合うことが大切です。
トラブルが発生した直後はおたがいに感情的になって、口も聞きたくないと思ってしまうでしょう。しかし、話し合わなければ問題は解決しません。おたがいに時間をおいて気持ちが落ち着いたら、冷静にトラブルの原因や解決策を話し合ってください。
もし、話し合いで感情的になるようであれば、ストッパー役として第三者に立ち会ってもらうことがおすすめです。第三者がいることで冷静に話し合えるうえ、ヒートアップしたときには止めてもらえるでしょう。
高価なものは遺産分割へ
資産価値の高い遺品の形見分けでもめている場合には、思い切って相続の対象として遺産分割するのもおすすめです。
資産価値の高い遺品の形見分けは「あとで売却して得しようとしているのでは?」と疑念を持たれてトラブルに発展する場合があります。また、ほかにも複数の相続人が形見分けを希望して、話し合いが難航することもあるでしょう。
そのようなときは相続の対象と捉えて金銭に換算し、ほかの相続資産と合わせて遺産分割することがおすすめです。金銭に換算して遺産分割すれば平等に分け合えるので、ほかの相続人も納得しやすいでしょう。
なお、資産価値の高い遺品は形見分けでも相続税や贈与税が発生するので、注意してください。
専門家に相談する
自分たちだけでトラブルの解決が難しい場合には、専門家に相談してみてください。
話し合いがこじれて複雑化してしまうと、冷静に話し合えず自分たちで解決するのは困難です。そのようなときは、法律に照らし合わせながら第三者の視点でアドバイスをくれる専門家を間に入れると、解決に導いてくれるでしょう。
相談先としておすすめなのは、法律に詳しくトラブルのプロの解決人である弁護士です。費用はかかってしまいますが、トラブルが解決せずに疎遠になるよりかは、弁護士に仲介にしてもらってトラブルを解決したほうがいいでしょう。
まとめ
形見分けはほかの相続人に許可を得ずに勝手に行うと、「もらおうと思っていた」と責められてトラブルに発展する可能性があります。必ず形見分けを行う前に全ての相続人に相談をし、形見分けをするときには立ち会ってもらうようにしてください。
もし、相談もなく勝手に形見分けの品を持って行かれた場合、遺産分割するまでは形見分けの品は全ての相続人が共有するため、返還を要求できます。
なお、遺産分割協議後にほかの相続人に相談せずに形見分けを行ったことが発覚した場合は、遺産分割協議をやり直すおそれがあるので注意してください。